裏ヴァージョン 松浦 理英子

裏ヴァージョン (文春文庫)

裏ヴァージョン (文春文庫)

40代に差し掛かった腐女子のはなし。(自称右翼の友人は、ホモは許せないけどレズビアンは許せるという、しかし彼は40代のレズビアンを許すことは出来るだろうか?)
構成的には、1人の女性の書いた複数の短編小説と、それにケチをつけるもうひとりの女性の応酬がリテラルに並べられるという形になる。
読み始めは、少々ウザイのだけど、小説内の小説にこの2人の現実(小説家崩れの失業者とそれを自分が親から引きついた家に居候させる硬い勤めを持つ女性の高校時代から現代に至るまでの歴史と現在の関係)が反映されているのだろうと思うようになるにつれて、少しずつ読むペースも上がる。
引きこもりの家族空間(例え他人の家であっても、そこに篭ってそこの住民との閉ざされた関係以外の人間関係を絶つという状態はひきこもりと言ってしまっていいのではないかと思う)というものはこういうものであろうと考えられるような、攻撃性ばかりが増幅されるような合わせ鏡的空間であるのだけど、何故か話がすすむにつれて攻撃性や凶暴性が弱まっていくようにおもえるのが不思議といえば不思議であったりする。
あるいはこれは、”読む=覗き見る”私が登場人物の事情を理解するにつれて、それに感情移入をできるようになってしまうためかもしれない。
片割れが、あたかも永遠に閉じ込められる、支配され続けることを望んでいるかのような小説を書き残して出て行くエピソードには、40代の女性がこんなに純粋(勿論、この家出は欲望を折り返させるために先取りして仕掛けられたものと読むべきなのかもしれないのだけど、”それにしたって、、”と思うのである、というか、そもそも私はこういう分野は不得手、)なことがあるのだろうかと少し驚いた。
この人の若い頃の作品であるところ”葬儀の日”を思い出した。