「続・日本国の研究」猪瀬直樹、「「家計破綻」にまけない経済学」森永卓郎

BOOKOFFにて、「続・日本国の研究」(猪瀬直樹) を見つけた。気になることもあってパラパラと頁を捲ってみたものの肝心なことは見つからなくて、代わりという訳でもないのだけど税金についての主張が出ていた。
1998年当時の状況について、
民主党が主張していた六兆円の恒久減税を、小渕新総裁が自分のスローガンに取り入れた。橋本政権の特別減税は場当たり主義的で中途半端だった。国民の消費意欲は低迷したままで、日本経済に活力をよみがえらせることができなかった。 そこで両党の主張はともに減税のおうばん振舞となったが、・・・”
自民党総裁選のとき、小渕、梶山、小泉の三候補ともに課税最低限の問題についてきちんとした答弁をしてくれなかった。所得税の累進税率の最高六十五パーセントについては欧米並みに五十パーセントに引き下げると発言していたが、代わりの財源については明快な答弁がなく、課税最低限の見直しには口を濁した。”

所得税課税最低限は年収三百六十二万円(夫婦子供二人)が特別減税で四百九十二万円とかなり高いところに落ちついている。・・・・日本の三百六十二万円に対して、アメリカの課税最低限は二百六十七万円、イギリスは百十七万円である。”


猪瀬は課税最低限の引き下げを主張していたのである。
そして、その根拠としてあげられているのは、

1、単に日本の税率を”欧米並み”にしろということであって、それ以上でもそれ以下でもない。
2、ここでは、抜き出さなかったが、民間企業の平均年収が四百五十七万円であるということより、半分以上の国民が”税金を払わなくて済むことになる。”という乱暴な論、いうまでもないが、1998年当時でも税金は所得税だけではなかった筈である。(そもそもが、誰も好き好んで低賃金ではたらいているというものでもないだろう。)


更に、賃金体系のはなしにまで論を広げ、

・”日本の賃金体系は欧米とは違って年功序列を基本としている。つまり二十代は安く、中高年になるにつれて上昇する。したがって低い賃金=貧しい世帯とは限らず、低い賃金=若年層ということになるのである。”
・”若年層の賃金は中高年に比べると相対的に低いが、独身貴族とも呼ばれており可処分所得は高い。だからW杯のサッカーで気軽にフランスまで行けるのである。”


締めくくりは更にむごい。

・”政治的な無関心、低い投票率は若年層に顕著である。彼らからもっと税金を取ったら目覚めるだろう。”


1998年頃に若年者を独身貴族と呼ぶことがあったかなと思うと、もう少し昔に流行った言葉だろうという気がしないでもない。
因みに、この頃の20代というのは、今では”氷河期世代”(概ね1970年代から1980年代初頭生まれ)とよばれている世代にあたるのである。
更にW杯に応じて、サッカーチームについて国境を越える人々というのが金に余裕があるとする発言も、実際に日本がW杯開催国となった後の時点からみると的外れであって、私達が見たのは、貧乏人が、W杯観戦を目標にして、けなげに働いて、やっとこさ飛行機のチケットを買って、野宿をしながらチームを追いかけてきた光景であって、猪瀬というのは、あのしかめっ面のとおりに”わからない人間”なのだなという諦めに近い感情を覚えさせるのだ。(因みに、このように感じるのは、私に限った話かもしれない、古賀議員はかつて猪瀬のことを”わかる男”と評していたらしい。)


「「家計破綻」にまけない経済学」(森永卓郎)には、2004年当時の所得税課税最低限に触れられている。
”2004年1月にからの改定では配偶者特別控除の廃止によって、標準世帯でいえば三八四万円から三ニ五万円へ引き下げられるにとどまり、課税最低限引き下げの議論はまだ続いております。
しかし、2004年1月現在の国際比較(財務省)では、アメリカ三六九万円、イギリス三ニ六、ドイツ四九一万円、フランス三八六万円となっており。日本が先進五カ国中で最低となっています。
しかも図をみると、「夫婦1人の給与所得者の場合」と「夫婦のみの給与所得者の場合」でも五か国中最低、「独身の給与所得者の場合」でも一一四万円とアメリカに次いで下から二番目です。アメリカやイギリスでは低所得者所得税を還付する制度があることを考え合わせると、先進国どころか、どの国よりも苛酷ということもできるのです。”
”他方、給与収入ニ000万円の場合の所得税・住民税・の実効税率(各種の控除を調整した実質的な税率)をみると、イギリス三ニ・八%、ドイツ三ニ・ニ%、アメリカニ四・四%、フランス一七・五%に対して日本はニニ・0%とフランスに次いで安くなっています。”


二冊の本の上げている数字の間には随分と開きがある。
勿論、書かれた時間にも五年の差があり、社会構造的にも各国変化があったのだろうけれども、特に猪瀬の上げている数字には出所が書かれていない分、信憑性も低く感じられてしまったりもする。(そこらをキチンと書き添えないということで、たとえ噂通り政治家や官僚の御用ききライターであるにしても、お粗末と思われかねないのではないだろうか。)
また、逆に言えば、猪瀬のようなデマゴーグの扇動によって2004年の税制が実現してしまったともとれるのである。
また、10年のうちに賃金体系も変化して、若年層=貧乏という公式も成り立ちがたいものになったということも考えて、抜本的見直しとやらをして欲しいものだと思うのである。


続・日本国の研究 (文春文庫)

続・日本国の研究 (文春文庫)

「家計破綻」に負けない経済学 (講談社現代新書)

「家計破綻」に負けない経済学 (講談社現代新書)