自分の最も古い記憶は二才の時のものである。集合住宅の階段から転がり落ちた時のこととか、部屋の中に荷物が積み上げられていて、そのなかに自転車があったこと、或いは、雪のなかを飛行場に向かったことなど。二十歳を過ぎてからのことより鮮明であるのは、言葉を覚える以前のことであることより、無駄に神経細胞を使っているのではないかとかってに思い込んでいる。他人も似たようなものだろうと思い込んでいたのは、三島由紀夫の小説にて産まれたとき記憶があるという記載を読んだことによる。その思い込みが今日覆った。古本屋で手に取った本、タイトルも著者も覚えていない、サックスではないことだけは確か、記載に依れば幼児期の記憶というものを持たない人もいるとのこと、こういう人たちは、七歳位からのことしか覚えていないらしい。