日記

休日に繁華街のコンビニエンスストアを出たところで、中肉中背というか、痩せているけど腹の辺りがたるみ気味という貧相な体格で、金のネックレスをして眼鏡を掛けているの中年男性に話掛けられた。
”久しぶり”とのことであるが、私は彼を思い出すことが出来ない。
学生時代の同級生だろうか、であれば、こういう容姿になっている可能性のある奴がいないわけでもない。相手の表情が歪んでいるのは、私がなかなか思い出せないことにいらだっている徴だろうか?それとも、正午の強い日差しに耐えているせいだろうか?
”申し訳なありませんが、何処でお会いしたのでしたか?”と此方から尋ねたところ、あんた、××関係だろと此方の業種を言ってみせる。
ということであれば、この十数年のうちに、どこかで一緒に仕事をしたということになるのだろうが、思い出せない。勿論、普段スーツ姿で会っていた人であるとすれば、カジュアルな服装で出会ったときの識別の難しさは判っているつもりなのだけど、と悩んでいると”ナベさんとかマッちゃんとか識ってるだろう”と畳み掛けるように話しかけてくる。勿論ナベさんもマッちゃんも自分の周りにいたことはあるが、それぞれ一人という訳ではないのである。といういか身の周りにナベさんがいないとかいたことがない日本人というのは稀だろう。マッちゃんだって似たようなものだ。なんといっても松のつく苗字はみなマッちゃんと呼ばれうるのだ。
後から考えるのであれば、相手は名前を名乗るべきであったし、私は名前を確認するべきであったのだけど、その場では、当たり前のことに気が着かなかったのか、あるいは失礼に当たるのではないかと過剰に礼節を重んじたということであったのか、それ以前に訊くタイミングを逃してしまったということであったのかもしれない。
仕事関係というよりは、小学校の頃の同級生に雰囲気が近かったため、という目の前の顔を無理に照合しようとすれば、思い当たるのはそれぐらいしかなかったため、相手も誤解しているのではないか、たまたま、識った顔を見掛けたが、誰か判断できずに仕事上の知り合いと勘違いしていて、たまたま同じ業界で働いていたりするために、こんがらがっているのではないかと、そもそも小学校の頃、同じようなことに関心を持っていたのだから、同じような仕事をしていたとして疑問はないだろうと、同級生の名前を口にして、相手の反応をうかがったが、思うような反応ではない。
此方が焦燥感から抜け出す前に、相手は”そのうちまた会うだろうから、”と言って、その場から離れて熱いアスファルトの上をゆらゆらと歩いて行ってしまったが釈然としない。
自分の犯してしまったかもしれないとんでもない失礼を忘れるために、俺俺詐欺みたいなものなのではないかと思おうしてみるのだけど、それでも気になってしまうのである。