駅前で工員服をきて、楽器を演奏している人がいる。十年以上以前から時々みかける。手にしている楽器は日によって違い、あるときは透明のプラスチックの管に穴を開けた自作の横笛であったり、ビアニカであったり、あるいは、小さなボンゴをスティックで叩いていたりする。不思議なことは、その演奏しているはずの音楽が何やらわからないことである。下手とか上手いとかいうのではなく、キチンと演奏しているのだけど、その音の並びが落ちつくところがないことで、出鱈目であれば数時間も演奏を続けられはずもないだろうと、かといって譜面なしに、延々と楽器を演奏して、それが単調な繰り返しに収まっているかといえば、そんなこともない。もしかしたらフリージャズなのではないかと思い始めたのだけど、これはまた、つまらない類推なのかも知れない。でもって、このあいだとなりに座って、ボンゴをきいていたら、四拍子でグルーヴ感のある叩き方をしていてとりあえずジャズかロックだろうと、少し安心したのだけど、僕が興味本意で聴いていることに、気分を害したのか、いきなり演奏を中断して引き上げてしまった。