二十代の一時期、アルバイトをさせて頂いていた画材屋がなくなっていた。
別に、そのこと自体は、その後経た時間を考えれば驚くべきことでもないのだろうけど、お話を伺ってショックを受けた自分に驚いた。
教えてくださったのは、同じ系列のお店の店長さんで、別に面識があったわけでもなく、初見の方で、なんでも、お店が入っていたショッピングセンターの都合で、階を移動させられて、尚且つ売り場面積が狭くなってしまって、品揃えが悪くなったとか、いろいろと批判も出るようになったので、この四月に撤退したとのこと。勿論、初見の人間にいきなり事情を話したということではなくて、撤退という言葉に対する私の尋常ではない反応に驚いて、その場を取り繕わなければいけないような気分にさせてしまったのではないかと思う。話しながら、だんだんと辛そうな表情を滲み出させたのが印象的で、店長として系列の店が一つなくなったことが辛いということか、働いていた人たちのこと想って辛かったのかとか、余計なことを考えてしまった。
しかし、”この四月”ということであれば、まだ、一月なので店自体のこっているのだろうかと、すっかり様変わりしたショッピングセンターに行ってみて、建物の構造自体は変わっているわけではないので、大体この辺りと探り当てた店が以前にあったスペースにはユニクロが入っていた。
店長さんは仕事が忙しくて年が明けたことを忘れていたということなのだろう。
所在なくそのあたり歩いていると、従業員トイレの前のベンチでサボって咥えタバコの友達と話しこんだことがあったとか、この柵に張りかけのキャンバスをもたせかけたりしたとか、まるでレコードに針をおろしたかのように、場所を仲介にして、自分の頭の何処にこんなに情報が残っていたのだろうかと思えるほどいろいろなことが思い出されて驚いた。